あほを晒してみる

ほらほら書きたくてたまらなかったリュ月を勢いで書いてみるよ!

『ルール』

 落ち着いた雰囲気の、よく整理がされている洋室。青年がデスクに置かれたパソコンに向かっている。しばらく画面を眺めていたが、退屈そうに溜息を吐くと、椅子を回して身体ごと画面から視界を逸らした。
 デスクには赤い林檎。青年がそれを手に取り、ぼんやりと宙を眺めながら手の中でくるくると回す。
「……」
 しばらくして、青年がふと何か思い立ったように椅子から離れ、ベッドに寝転がった。手には林檎。
「……。なあリューク
『何だ?』
 声は青年にしか聞こえない。虚空を見上げた先には、デスノートに触れた者にだけ見える黒い死神が浮かんでいる。
「ベッドに寝転がったことってあるか?」
『いや』
「試してみないか?」
『いいや、別に興味ねえなあ』
「付き合いが悪いな、リューク
 青年が眉を顰めて死神を睨む。不機嫌な顔をしていたのは一瞬のことで、視線はすぐに林檎に移された。
「……美味しそうだな……」
『あ、やっぱり付き合うよ』
「そう云ってくれると思ったよリューク
 破顔した青年がベッドに寝転がる。青年に倣って死神がおそるおそるといった様子でベッドの上に乗った。
「それじゃ駄目だよ、身体をベッドに預けないと」
 ベッドに触れそうなところで空中に浮いている状態を指摘して、青年が軽く死神の肩を押した。実体を持った死神の身体が柔らかなベッドに沈む。
『なんだか妙な感じだな』
「ははっ、初めてだったらそう思って当然かもね」
 上半身を起こし、青年は楽しげな表情で死神の身体をぐいぐい押し始めた。
「もっと身体を預けて。そう、もっと。それで力を抜いてリラックスするんだよ」
 云いながら、さり気なく青年が死神の上に乗った。隙のない笑顔を浮かべる。
「じゃあ次は人間がベッドの上でする遊びも試してみようか?……」
 死神がぎょっと目を見開き、次の瞬間青年は身体の支えを失ってベッドに倒れこんだ。驚いて振り返った青年の背後に、大きな身体を小さくした死神が浮かぶ。
「……当分林檎は抜きだと思え、リューク
 ベッドから起き上がりながら青年は冷酷に告げ、死神を残して部屋を出る。死神の面前でドアが音を立てて閉まった。
 後に残された死神はしばらく力なく項垂れていた。青年のデスノートを取り出してぱらぱらと何項かめくり、青年が戻らないうちにルールを書き足した。死神は性交しない。
『林檎食いてえなあ……』
 死神の溜息が、誰にも聞かれないまま部屋に響いてすぐ消えた。