受信状態良好

旅先からちまちま書いてみました。誤字脱字をチェックしたらサイトに載せます。久々に文章更新です。

※電波注意

『受信状態良好』

 気持ちが悪い。頭がおかしい。どう考えてもまともではない。自らを埋葬する穴を掘りながら、私は狂人の福音を聞く。
「ありがとう竜崎」
 真横から唐突に声をかけられて私の身体は反射的に震えそうになる、「なんですか」落ち着いた様子を装ってこたえれば、夜神月が控え目な笑顔でこちらを見据えている。
 柔らかいソファ、細かに細工のなされたテーブル、手の込んだケーキに香り高い紅茶も私の気分を明るくすることはできなくなった。味覚は今や遠い。鎖で繋がれた先に居るものが私には理解できない。
「僕が甘いものはそんなに好きじゃないって云ったのを覚えていてくれたんだね」
「……なんの話ですか」
「ほら昨日云っただろ、」
「ああ、あのことですか……」
 私が一口食べ残したケーキの皿を、夜神は両手で捧げ持ってゆっくりと舐め尽くしていた。あの整った顔で白痴のようにべちゃべちゃと皿に付着した生クリームを舐め取るさまを見たくなくて、私は砂糖もろくに入れていない紅茶を気付かない振りで飲み続けたのだった。
 既に食べ切って、綺麗に空になった皿だけが今日のテーブルには残されている。だが夜神は構わず皿を手に取ると、赤い舌を伸ばしてべろりと舐めた。私を見ながら。
 今頃になって突然、先程食べたケーキの甘さが込み上げてきて、胃のなかのものがせり上がる。
「……う」
 小さく呻くと、何がたのしいのか私が使ったフォークを舐めあげながら夜神がわらう。

 入浴時、夜神は必ず私の全身を舐めるように凝視する。私がいいと云ったらそれこそ全身に余さず舌を這わせるのだろう。
「竜崎、触っても?」
「見て解りませんか、私は身体を洗っているんです」
 彼は私を蹂躙する代わりに、その美しいかたちをした手を私に触れないぎりぎりまで近付けて私の造形をなぞる。
 私が全身を泡立てたボディーソープで擦り、汚れをすっかり落としたところで、夜神が有無を云わせずに私の前に回りこみ、ひざまずいた。
「ああ竜崎、どうしても我慢できないんだ」
 陶酔したような目で私を見つめ、私の足を手に取ってくちづけながら、夜神は女性が男性器にするようにそれを愛撫している。
 込み上げる吐き気を堪える。鋭い耳鳴りを聞きながら視界が揺れた。あいている方の片足がタイルの床を滑り、夜神の足の間のものを掠めた。夜神が肩を震わせる。
「りゅうざき」
 呻いて顔を上げた夜神の目は貪欲にひかっている。私は身の危険を感じて咄嗟に彼を張り倒した。
「……!」
 声もなく夜神が倒れる。背中をしたたかに打ったのか、吐息と共に呻きがあがる。
 私は夜神に覆いかぶさり、肩と両足の付け根を押さえ反撃の可能性を潰す。僅かにもがく夜神を床に縫い付け、あいた左手で自分数回の性器をしごいてから夜神の足の間に突き込む。
「っう、ううっ!」
 容易には挿入出来ない。私は手の届く範囲にあるものを幾つか掴む。シャンプー。石鹸。ボディーソープ。ボディークリーム。その中から一番妥当そうに見えるクリームを取って、お互いの股間に乱雑に塗りたくる。再度性器を押し付ければ、先程よりは容易に夜神の中に入る。夜神が苦痛を堪えきれず獣じみた叫びをあげる。そうして脂汗を滲ませながら夜神はにっこりと笑顔を浮かべている。
 私は夜神の笑顔のおぞましさにぶるぶると震えながら夜神を犯す。揺すぶられながら夜神が歯を食いしばって泣き声のような音を漏らした。
 気持ち悪い。気持ち悪い。吐き気に全身の毛穴がひらくようだった。総毛立ちながら私は無心に腰を振る。こうしなければ私が夜神の立場に立たされていたかも知れない。考えただけで悪寒がする。夜神は青ざめた頬を吊り上げて揺れている。
 ぐちゃぐちゃという水音が私の中で響きわたる耳鳴りに重なってぞっとする。夜神の警告めいた呻きを聞きながら私は夜神を徹底的に蹂躙する。搾り出すようにして精液を夜神の中に叩きつけて、私はやっと強張る全身から力を抜いて彼から体を離した。徐々に明るくなる視界に、ぐったりと横たわり、細く息をする夜神の姿がうつる。下半身は精液に塗れ、閉じた瞼には乱れた髪が陰をつくっている。
「……ぐっ、」
 喉の奥から込み上げるものに抗わず、私は顔を背けて嘔吐した。私の横で、流しっ放しになっていたシャワーの湯が排水溝に流れこんでいる。荒い息のまま湯で口の中をすすぐ。吐瀉物はシャワーに洗われてすぐに見えなくなった。
「りゅうざき」
 視線を戻せば、うっすらと目を開いて夜神が薄気味悪く微笑んでいる。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
「有難う竜崎、僕ののぞみを解ってくれて」
「心底気持ちが悪くて吐き気がします、実際吐きました。本当は近寄って欲しくもありません」
「だけど竜崎は厭だと云ったことは一度だってないだろう」
「はい、夜神くん」
 私は頷いて微笑みかえす。正常と異常の線引きなど本当は信じていない。