例の悔しい奴

先日PCに触れられなかった間にノートに書き留めたもの。
……を、アップしようとしつつすっかり忘れていました。
これは一発書きなので後で少しは手を加えたいなあと思っています。

『退屈』

彼は待ち望んで居た。だが自分が何を求め何を待ち続けているのか、彼にはどうしてもわからなかった。彼は自らの願いを見つけるために様々な努力をした。しかし努力は彼に解答を与えなかった。彼はそのうち自分に本当の願いなど知らないほうが幸せなのだと云い聞かせて納得をしようとした。彼はそれで納得した積もりになることに成功した。それは彼に少しばかり朗らかな気分を味わわせた。それでも彼が何かを待ち望む事を止められた訳ではなかったので、彼はあまり長くは自分を騙せなかった。彼は絶望した。絶望は彼にとっては些細なことでしかなかったので、すぐに絶望にも慣れてしまった。結局のところ、彼はいつだって絶望していたのだった。
実のところ、彼の待ち望んでいるものとは死かそれと同等の破壊だった。彼は周囲の人間達をあまりにも愛していた、そしてあまりにも愛されていた。彼をゆるやかに殺しているものはそういった愛情と期待と温もりだった。彼はいっそ憎まれたかった、疎まれ蔑まれたかった。そうした彼の希望は恐らく傲慢なものであったが、彼はただひたすらそれを願っていたのだった。
彼は彼自身正体の解らないものを待ち続けたが、幾ら待っても彼の望みがかなえられる気配すらなかった。そればかりか、彼が周囲の愛情に応えずには居られないというだけで、彼にそそがれる愛情は深く大きく、彼の手に負えないものになっていった。今や彼は愛情によって圧し潰されようとしていた、しかし愛するものたちから向けられる好意に背くことなど彼に出来ようはずがなかった。彼はますます人々に優しくなった。それと引きかえるようにして彼は徐々に自分の苦しみに鈍感になっていった。彼は愛情に応えるために自らを殺した。彼が感じるのはもはや退屈ばかりだ。

これで書こうと思っていたことを、書いた直後に読んだ本『ベロニカは死ぬことにした』であっさり説明されてしまってがっかりしたような納得したような……。自分なりに表現したいです。