普通にいい話だった

パウロ・コエーリョ氏著作『ベロニカは死ぬことにした』を読みました。もっと鬱なお話なのかと思っていたら実はかなりいい話だったので驚いた作品です。なかなか可愛いです。読み終えてからその後を想像するのが楽しかった。

と云う訳で早速L月変換萌えとかしちゃったんだけどどうかな!(※笑顔で)
多少原作のネタバレをしていますが、原作を知らなくても別に何とかなると思います。一応オチまではネタバレしていないので、ええと角川文庫の紹介文などで大まかな粗筋を知っているのなら読んでも差し支えないかと思われます。
飛行機の中で書いてたので原作うろ覚え……。

『月は死ぬことにした』

不協和音は抱えてきた憎しみを孕んでつよく夜のラウンジに響いた。死を選ぶことに決めた月はもう正常ではなくなってしまったのだった。異常な人間が精神病院で異常な行動をとるのはごく当たり前のことだ、そう月は考えながら鍵盤に怒りと憎しみをぶつけた。もうあと数日で死んでしまう異常者がすこしばかり奇妙な行動をとったからと云って世界が少しだって揺らぐはずがなかった。月はリラックスさえしながら、ただ積み上げていくほかなかった憎しみを鍵盤に叩きつけた。
憎しみは不思議なことに徐々に薄れていった。不協和音が苛立たしげに響き渡るのを、月はやがて穏やかな気持ちで聴いた。滅茶苦茶な音の奔流は徐々に荒々しさの質を変えていった。月が心に流れる静寂と平和に気付く頃には、憎しみなど最早跡形もなかった。
月は目の前のピアノを改めて見つめた。白と黒とが整然と並んでいるそれは実に美しい楽器だった。月は自分がいかにこの楽器と奏でだされる音色を愛しているかを思い出した。窓から差し込む月光が優しく鍵盤を撫でていく。月はその光に指を浸すようにして鍵盤に触れた。月の光が波打つ音が聴こえたような気がして、その音に耳を傾けようとするうちに指は白と黒の上をするするとすべっていた。最初は聴き取れないほどかすかに、それからゆるやかに音はピアノから溢れた。月は月や星やそのほかの色々なものに織り成されてゆく音を捧げた。月の閉じた瞼の裏で、ピアノから溢れた音は床一面にひろがってひたひたと打ち寄せている。
月が次に目を開けたとき、ピアノの端に寄り添うようにして青年の姿があった。竜崎だ。彼は狂人たちのなかでもとりわけ狂人らしい人間のうちの一人だった。竜崎は身じろぎもせず音楽に耳を傾けていた。
精神病患者で既に治療の余地がない竜崎の姿を見ても、月は初めて狂人たちを目にした時のように怖れたりはしなかった。窓の外で風が吹いて、竜崎の血色の悪い頬を影が掠めていくのを月は不思議なほど穏やかな気分で眺めた。指先はまだまだ自由を楽しんでいるし、心臓の調子も良さそうだった。月は竜崎に向けて微笑んだ。竜崎が微笑み返す。
音楽がゆっくりと竜崎の心に届いていくのを月は見守った。誰もが竜崎を見放していたし、竜崎はいつでもどこか遠い世界にいた、だからそれは恐らく奇跡のようなものだった。竜崎はじっと月を見つめている。竜崎は特に泣いても笑ってもいなかったけれど、その表情は今までの彼が見せていた能面のようなものとは違っているように思えた。月は竜崎のためにソナタを弾き始めた。

以下雑談、オチまでネタバレしているので要注意。

これはベロニカという女性が自殺することに決めて睡眠薬を飲むのですが、一命を取りとめたものの薬のせいで心臓がボロボロになってしまい、残り数日の命となってしまうというお話です。
彼女は自分に残された時間が僅かだと知ってようやく徐々に生きるために戦えるようになってゆきます。精神病院に収容された彼女は、彼女を自殺に踏み切らせた原因などにも向かい合っていき、そこで出会った多重人格者の男性と恋に落ちます。彼らはベロニカの余命がもう幾らもないことを知った上で精神病院から脱走するのですが、実は彼女の余命については医師が嘘を吐いていただけだったというオチがやってきます。医師は彼女が生きる希望を取り戻すように、半ば賭けのようにして彼女に嘘を吐いたのです。何も知らない二人は奇跡なのではと喜びます。

……と云うのがストーリーなので、これをL月でやると、毎晩竜崎が無言で月にピアノを弾くようにねだったりしちゃいます。そしてそのうち月が竜崎に心動かされてしまいます。月は竜崎に「竜崎、君はこの地球上で僕が恋に落ちることのできる唯一の人なんだ。それは僕が死んでも、君は僕を恋しいとも思わないからだけど。多重人格者がどう感じるのかまではわからないけど、たぶん誰も恋しいとは思わないだろうね。もしかして、まずはなくなってしまう夜の音楽のことは恋しいと思うかもしれないけど、また月は昇るし、ソナタを弾いてくれる人はきっと誰かいるよ。誰もが変人ばかりのこんな病院ならね」と云うんですよ萌える。
それから竜崎と性交渉を持ちたいと思うのだけれど、竜崎が何も反応を返してくれないので、竜崎の目の前で自分でするんです。竜崎の足許にひざまずいてどうしてほしいか云うんだ。竜崎は最初から最後まで手を出したりはしないのだけれども、月が自分でし終えたときにとても優しい目で見ているんです。それから月はまたいつものようにピアノを弾いてあげるんだ。あっ気付いたらえろかった。