雨ふりですね

『叩きつける雨』

 昼食の時間になっても食欲がわかず、紙パックのコーヒーだけを飲んで昼休みをぼんやりと過ごした。するべき事は多かったが雑事ばかりで、実際に月の手を煩わせるほどのものはひとつもなく、ただ手持ち無沙汰になって指先に挟んだペンをくるりと回した。
 不穏な色を見せていた雲が、臨界点に達した湿り気を帯びてなおくらく集う。月が他の生徒たちに押し流されるようにして校舎を出た頃には、既に大粒の雨が落ち始めている。
 早足で駅を目指すブレザーの集団に、不意に風が横からつよく吹き付けた。前後から上がる女生徒たちの小さな悲鳴。冷ややかに、雨が人々の足許を濡らす。傘にかかる重みと音が増す。雨足はさらに勢いを増したようだった。
 傘をやや傾けて見上げれば、雨は空からと云うよりも、頭上に広がる灰色という色から滴っているように思えた。誰もが俯いて歩いている。通い慣れた通学路がよそよそしく雨水を溢れさせている。
 自分が断罪してしまっていいのだろうか。
 叩きつける雨に、月の膝から下はじわじわと濡れていく。月は半ば機械的に歩き続けながら、日が暮れてもいないうちの薄暗さに不安を感じている。昼間殆ど何も口にしなかったためか、胃のあたりが酷く重かった。だが食欲はない。それどころか、そんな感覚があったことさえ、今の月には遠く感じられた。
 自分がしてしまって、許されるのだろうか。
 月は歩き続ける。この問いは、ここ数日月が何度でも繰り返し自身に投げ掛けているものだった。答えは未だ見えない。それを与えてくれるものも居ない。
 土砂降りの中、呆然と前に進む足は月を家族の待つ家まで運ぶだろう。月は、しかし彼に降り注ぐものに圧倒されて、進むべき方角を見極めることが出来ずにいる。