セメント・ガーデン

イアン・マキューアンの『セメント・ガーデン』を読みました。

『ハンギング・ガーデン(仮題)』

「休息をとりませんか、一ヶ月くらい」
 彼がそう云い出したその時まで、僕は竜崎の口から曖昧な言葉を聞いたことがないように思えた。それは実際そうだったのだろう、竜崎はこと数字の関わる発言をする時はその数値を正確に口にしていたから。
 ふうん、それでどうするの。返すともなく呟いた僕は既にだらだらと続く日常に倦んで何もかも投げ出したくなっている。キラを追うことに何の意味があるだろう、ただキラが大量殺人犯であること以外に。僕は疲れて退屈しきっている。それで僕は判断を竜崎に委ねるという意思表示のために捜査資料をテーブルに放った。
 何の予告もなく竜崎が立ち上がる。鎖に従うようにして僕は部屋を出て、竜崎が父や他の捜査員たちに滔々とまくし立てるのを眺めた。どんな説得をしたものか、気付けば僕は竜崎と二人きりで取り残されていた。竜崎はそのまま僕を連れてビルの地下の見たこともない部屋に移る。ソファとテーブルとベッド、それに続くバスルーム。部屋の隅には冷蔵庫が備えられ、竜崎はその部屋を非常用のものだと説明した。上のビルが全壊してもびくともしないつくりになっているそうだ。電源はある程度離れたところから引かれているし、さらにこの下に貯水池と発電施設があり、食糧は捜査本部の全員を三ヶ月養えるだけの分が別室の倉庫に貯えられていると云う。
 私とワタリの知るパスワード以外では扉は開きません、そう云って、竜崎は表情を微かに動かした。どうやら微笑んだらしい。僕もそれに微笑みかえした。

『セメント・ガーデン』に近い小説があるとしたら、『蝿の王』とかかなあ。現実世界との隔絶、civilizationの崩壊。逃避はそう難しいことではない。
久々に瓦礫ではなくちゃんと文章のリストに載せられそうです。
続きは書き上げてからサイトに掲載します。