古いものを見つけたよ

映画前篇を見た頃には書いてあったのに、ずっと忘れていたブツを発見しました。
鶫O畑です。

「あー、ええと……デスノートもかなり巻数増えてきましたよね」
「そうですねえ」
「じゃあ……最近昼メロで面白いのとかありましたか?」
「云ったところでどーせ知らないでしょ」
 O畑が何と云って会話を始めたらいいのか迷いながらようやく口にした発言は、鶫によって次々と軽くあしらわれた。
 O畑は戸惑ったが、今日会うことを提案したのはO畑の方だったので、いつものように黙ってしまう訳にはいかなかった。今日は鶫に相談があってわざわざ呼び出したのだ。
「あの、実は」
「巻数が多くなるのは別に構わないんですけどね、」
「あ、はい」
 O畑には時間的な余裕がない。原稿は常に彼に週七日の作業を要求するのだから。鶫が話しだしたら鶫の気の済むまで話させないと面倒なのだが、そもそもO畑には鶫の話をいちいち聞いているような時間さえなかった。
 ここは本題について発言するべきなのだろうか。O畑は一瞬迷ったが、自分から呼び付けたからには相手を優先するべきだと思い直した。そんなO畑の内心には全く構わず鶫は話を続けている。
「でも毎回How to Useを考えるのが面倒なんですよ。」
「はあ……」
「だって毎巻違うのを考えないといけないっていうのが面倒じゃないですか。そんなに沢山ルールは必要じゃないし」
「それはそうですね」
「O畑先生もそう思いますよねえ?」
「はあ」
「How to Use減らしたらデスノートの今までの体裁が崩れるでしょう、O畑先生だってその分あいたページの穴埋めに仕事増えますよ、そしたら困っちゃいますよー。ね?」
「そうなったら……確かに困ります」
 時間がないので、とO畑は続けようとするが鶫は気付かなかったようだ。
「ですよねー。と云うことで先生、今後は先生がHow to Useを書いてください」
「……はい?」
「だからほら、やめる訳にはいかないし。私は手があいてないし。もうY田には話通してありますから、先生よろしく」
 にこにこと愛想よく微笑み、鶫は漸くテーブルに乗り出していた身体を引いて椅子に凭れた。
「あーよかった先生に引き受けて戴けて。助かりましたほんと」
「あの……申し訳ないんですが」
「……そうでなければ巻数減らすためにいっそ連載終わらせようかと思ってたんです」
「え」
 鶫は世間話でもするようにごく軽い調子で続けた。
「だって面倒もいいとこじゃないですか、やってられませんよあんなの」
「で、でも」
「じゃあ先生宜しくお願いしますね。あ、ここは払っておきますからごゆっくり。私もこれでなかなか忙しくて。これから友人と待ち合わせてギャラリーに行くんですよ」
 それは忙しくない。しかも了承もしていない。だが鶫はO畑に反駁の余地すら与えず一陣の風のように去った。仕事内容が多忙を極めるので何とかして欲しいというO畑のささやかな望みは、叶えられるところからはあまりにも遠かった。