ファンタジーっていいなあ

※妙なファンタジー注意
※月は犬ですが形態は人間に犬耳と尻尾がついたものです

『犬と歩く道』

「あなたに心底惚れてしまったのであなたを買おうと思います、さあ値段を提示してください、私も能力の許す限り値切ろうと考えています」
 そう云って商人特有の隙のない眼で挑んでかかった男を月は信用することにした。
「よし売った。まずは前金として銀三千を払えなければ話にもならないが、それ以降の金額は交渉次第だな」
 僕は高価いからな、月が傲慢に顎を上げれば首の鎖がじゃらりと鳴った。捕らえられて鎖に繋がれたた野良犬の身分でよくぞ強気に出られるものだが、それも男が月を買い取るためには金を惜しまないつもりでいることを信じているからだ。男の気持ちを疑いもせず月は微笑んだ、それで当の男は反射的に罪悪感のようなものに襲われると同時に、果たして月のこの態度が計算し尽くされたものなのだろうかと考えて途方に暮れた。もしもこれが全て計算尽くなら今後の苦労は推してはかるべしだ。しかし云いだしたことをいちいち後悔することは嫌いだ。男は了承の証に唇の両端をぐいっと吊り上げて見せた。
「よし。じゃあ明日じゅうには僕を買えよ」
「解りました」
「幾らこの一帯が暖かいからと云って、僕はこんな裸のままで居るのは嫌だからな。服くらい用意しろ」
「一応用意はしておきます」
「それから僕はコンソメ味の芋の薄揚げが好きだ」
「はあ」
 まだ冷たい檻のなかに居るというのにすっかり月はご機嫌らしい。にこにこと惜しみなく笑う様子は想定される実年齢より幼い。
「安心したら眠くなった」
 云って月はころりと丸くなった。髪と同じ栗色の耳がぺたっと寝ている。こうして丸まると、月はちゃんと犬らしい。
「それでは明日また伺います」
「ん」
 頷く月の尻尾がぱさりと振られた。背を向けて立ち去ろうとしたところに不意に月の声が追ってきた。
「……で、お前の名前は?」
 ……確か最初に名乗った時は、人間の名前を覚えるのは面倒だと云っていたはずだが。
 やっと面白くなって男は月を振り返った。次の街に向かう時、隣に居るのは月だ。
「竜崎と呼んでください」

(続く可能性がなきにしもあらず)

昨日から読んでいるファンタジーに触発されて、つい。
パクりと云うか、「獣耳」「尻尾」「商売」「旅」という項目は戴きました。ちょっと続き書きたいなあ……