『夢』

 「ごっこ遊び」をしましょう、と竜崎が云うので僕たちは無毛なロールプレイに興じている。僕がキラの役で、勿論竜崎はLだ。
「どうして人をころしたんですか」
 最初はごく単純な質疑応答から始められたこの遊びはいよいよ核心に近付いている。僕の頭は竜崎が用意した何かの薬でぼうっとしている。
「必要だったからだ……それは目的じゃなく過程にすぎない」
 薬物を使用した上で得られた情報が夜神くんに不利益をもたらすことはありません、そう保証されたつまらないゲームに僕は乗っている。
「ではあなたの目的は何ですか」
「解ってるだろ、犯罪者の居ない……優しい世界が出来ると思ったんだ」
「そんなことは机上の空論です。そんな世界は成り立たない」
 突き放す言葉を吐きながら竜崎の手はそっと僕を撫でている。一瞬波立った僕の心はそれで少しずつ落ち着きを取り戻す。
 ああ頭がぼうっとする。
「夢……を、みたんだ」
 竜崎が何も云わず僕を見ている。僕は自分の口から言葉がぽろぽろ零れおちるさまをどこか遠くから眺めている。
「キラが世界の抑止力になれば、綺麗で優しい世界が……だって、僕は何かしたかった、この世界を……」
 僕は俯いて竜崎の手を強く握る。こんなのは僕じゃない。薬のせいで、だから、
「それが……僕なら実現できるんじゃないかって、夢を……みただけなんだ」
 僕からはとうとう言葉だけじゃなくて涙まで零れた。なみなみと満たされて僕はそれをすっかり竜崎にこぼす。気持ちがぐらぐらする。
「……いいんですよ、夜神くん。もう眠ってください」
 こんなのは竜崎じゃない。優しい声に僕は目を閉じる。竜崎にしがみつくように丸まって、僕はゆっくりと呼吸を繰り返した。
「今日は全部なかったことにしますから安心して下さい。……おやすみなさい」
 目を閉じた先に僕は優しい世界を見る。それも見えなくなって、僕の意識は緩やかに闇に落ちた。