希釈

「こんなことをして夜神くんは本当に楽しいのですか」
無機質な声は頭上からばらばらと降り注いでは僕を打ち、僕は石を投げられた魔女になる。
僕は一生懸命竜崎の肌を辿りながら彼の表情の中に少しでも情欲のあかしが見えないかと探るけれど、彼は横たわったまま不愉快そうに僕を見下ろすばかりだ。
「楽しいのですか」
竜崎が聞きわけの無い子供を糾弾するように僕を見据えた。彼が普段手放さない儀礼的な気遣いが寧ろ僕の首を締め上げる。
「た、楽しいよ……」
僕は俯いて心にも無い言葉を口にする。楽しくなんかはない。そんな即物的な快楽が目的なのではない。僕は竜崎を恋しく思わずに居られない自分を慰めるため彼に触れている。
竜崎は性的交渉を持つなら相手は女性がいいと、明確に述べた。それが当然でしょう、だから私ではあなたの期待には沿えません。それでも僕は竜崎が好きなのだった。そして竜崎に好意を寄せるほど彼の嫌悪しか引き出さないことに尚更絶望した。
僕は出来る限り丁寧に竜崎に触れていった。彼が物理的にでも構わない、僕によって悦ぶところを見たかった。僕は竜崎の下肢に指を絡める。だがそれはいつまで経っても僕の手の中で力無く項垂れたままだった。
「……」
僕は無言で身体を起こすと、乱れた竜崎の衣服をゆっくりと元通りに戻した。竜崎は無感動な視線で僕を眺めていた。満足しましたかと声を掛けられても、僕には答えることが出来なかった。そのまま動けずに居る僕の目から大粒の水滴が幾つも零れてパタパタとシーツに模様を作る。悲しさで息が止まりそうだった。
せめて竜崎にくちづけたくて堪らなくて、僕は接吻を許して欲しいと切なく懇願する。
竜崎は嫌悪の情を顕わに顔を背けた。
「……そんなことをされたら吐きそうです」
僕はそれ以上の言葉を失い、黙って目を伏せた。
竜崎は民衆であり裁判官であり死刑執行人だ、だけど彼は僕を磔にすらしてはくれない。死に切れない断末魔の悲鳴だけが僕の体の中の空洞でいつまでも響いている。

Kさんが日記で仰ってたのってこんな感じでしょうか。萌えたので思わず書いてしまいました。すっ済みませ……!
東京事変いいなあ、毎日萌える。