永遠

(ちょっと長いので伏せておきました)

死んでしまえば永遠だなんて、誰が云った?

流河、竜崎、L。彼が死んでから何日が経ったか、数えるのを止めてから少し経ちます。
竜崎が殺される前の日、彼は僕の手を握って祈るように額にくちづけてくれたので、僕は竜崎が僕を大切に思ってくれていたということにしています。
死ぬ前日まで僕を好きでいてくれたのだとしたら、きっと死んでしまった日も僕を好きでいてくれたのでしょう、だったらもう彼の心変わりに怯える必要はありません。彼が僕から興味を失う日は絶対に来ないのです。
安心。喪失感。必要の無い現実。モノクロの人々が流す涙。俯く父の額。何か後悔にも似た感情の波。そして再び訪れる安心。
竜崎の死に顔はあまりよく憶えていません。
皆が竜崎の名前を呼びながら悲しみを零していた中で、彼の形をしたものを見つめました。それが竜崎じゃなくなったモノなのか、それともまだそれは竜崎自身なのか。僕には判断がつかなくて、とても困惑していた記憶だけが妙に鮮明です。
永遠。不意に、そう思いました。
死ぬということはつまり生が中断されることです。だから竜崎にとって僕が特別だったという事実もまた、中断されてしまっている。
結局のところ、それは本当の意味での永遠を意味するのです。だって中断された感情は二度と変わらないから。後には戻らない代わりに前にも進まない、死の瞬間に切り取られた感情。永遠。
それを実感しながら、僕は名前も知らない男の名残に触れました。死はひんやりと優しい。
竜崎にとって永遠に僕は大切なままです。永遠に。
僕は自分が羊水に浸かった胎児のように安心しているのを自覚していました。

竜崎。
その時、僕はまだ永遠の恐ろしさに気付いていなかったのです。

僕は安心していました。深く、深く竜崎のくれた優しい感情に浸かって、とても安心していました。もう何者も僕と竜崎を脅かせません。だって竜崎は二度と心変わりしないのだから。
だけど、僕は僕を慰める腕に気付かされてしまったのです。
竜崎は二度と心変わりしない。
でも、残された僕はどうしたらいいのでしょうか……?
僕はゆっくりと瞬きをしました。
視界の端に映った彼が僕を見つめる視線が痛いほどに感じられました。
「月さん」
彼が囁きます。
「もう竜崎はいないんです」
彼が囁きます。
「竜崎は、もういないんです……」
彼が囁きます。
ああ、竜崎。お願いだから僕を助けてくれ。
「やめろ……」
「月さん」
「君には関係無いだろう」
「月さん」
「僕は、」
僕は竜崎だけを見つめていたいのです。いつまでも。いつまででも。
永遠に。
あんなに欲しかった永遠は今こうやって僕の手の中にあるのに。
「月さん!」
必死で耳を塞ぐ。
聞きたくない。何も。
「私を見て下さい。月さん。もういない竜崎ではなくて、私を」
嫌だ。そんなのは違う。
お願いだから何も聞かせないで。僕の心をこれ以上かき乱さないで欲しい。
頭を抱え込むようにして耳を塞ぐ。
もっとしっかりと塞がなければなりません。竜崎の声しか聞こえないように。
何にも惑わされないように。
僕は僕のするべきことをしました。後悔なんてするはずがありません、だって僕には使命があるのです。そのためなら何だって投げ出してみせると、僕はそう決めて踏み出したのです。彼の屍を踏みつけにしてどこまでも歩いてゆくのです。
竜崎。
竜崎。
僕はまだお前を憎んでいる、そうだろう?
だって僕は憎しみより強い感情を知りません。

恐怖の対象は自分。カウントダウンを恐れながら、優しい言葉に耳を塞ぐ。心変わりなんてしてはいけない、僕はまだ竜崎を憎んでいなければならないのに。重なってくる唇が凶器。それを受け入れてしまった瞬間が僕の本当の死。
……永遠の、はずだったのに。

ああもう、
竜崎が僕を置いていくから。

死んでしまえば永遠だなんて、……誰が云った?


だらだらと長くて済みません!
昔別ジャンルで書いた死にネタを転用してみました。最初からきっちり書いた訳ではないので、サイトに載せるとしても瓦礫行きです。
一応ニア月を意識しましたが、まだ全然キャラが掴めていないので出来る限り誰ともとれるように人物描写は避けています。ニアがどうやって月を呼ぶのかに凄く悩んだ。
時間が無いのにこんなの書いてどうするんだろう私orz