中華!

中華食べまくりL月その1。

 無駄に燦然と輝くレストランに連れてこられて月は心中頭を抱えた。何だこの悪趣味なところは。本当に食事だけなんだろうな。
 ちょっとした用事で出向いた小旅行、滞在していた飯店のロビーでたまたま父の元上司に出会ったのが運の尽きだった。折角だからと食事に誘われ、丁重に断ろうとしているところに竜崎まで出てきたあたりから話はこじれ始めた。何を思ったか機嫌を悪くした竜崎を宥めているうちに竜崎共々食事に誘われ、改めて断ろうとすればそれで更に不愉快な顔になる。結局どうにもはっきりした態度をとれずにいるところを押し切られてしまい、今晩は札束で膨らんだような腹の天下り男と三人での食事となった。
「……だからお前さえ黙っていればそもそもこの人と食事をする必要もなかったんだ」
 相手に聴こえないよう小声でぼそぼそと囁くが、竜崎は先ほどまでの不機嫌な表情もどこへやら、飄々と男の後ろを歩いてゆく。
「いいじゃないですか、ここの料理は結構美味しいですよ」
「珍しいな、お前がそんなことを知ってるなんて」
「はい。特にデザートの」
「ああ解ったよどうせそんなことだろうと思った」
 案内されて席に座る。男が勿体ぶって店のあれこれについていちいち講釈を垂れるのを月はつとめて礼儀正しく拝聴した。男の真横に座らされて、月は竜崎から最も遠い位置に居る。男が月の方しか見ないで話すので月は男とだけ会話することを余儀なくされている。シャンデリアのクリスタルがスワロフスキのものであることまで言及されていい加減月が反応に困り果てた頃、北京ダックが運ばれてきた。一旦客に見せてから横でスライスしていく。男がいつの間にか注文していたウィスキーのグラスを持ち上げて微笑んだ。乾杯、と云ってグラスを合わせながら、月はただ竜崎がこれからの長丁場に耐えられるものかどうかを心配していた。

続く。