月がおちていたその4

もとは軽く二回か三回で終わらせられる程度の短いパラレルを予定していたのですが、案の定予定はがんがん延びています。某『とある一日』とかがその典型ですね。
と云う訳で続きです。出来る限り早めに終わらせたいなあ。

『ドアの前に月が落ちていた』その4

「キラ。……それがあなたの名前ですか」
 私が首を傾げると、少年は何故かうっすらと微笑んだ。
 私はと云うと、先ほどから少年が取る奇行の意味も脈絡も全く掴めずに困惑している。意識が朦朧としていたかと思えば、唐突に鏡を眺める。私を知っている素振りを見せながら、私がLであることの重要性を解っているのかどうかすら怪しい。この少年は一体どういった施設から逃げ出して来たのやら。私の頭は痛くなるばかりだ。
「僕が何者か知ってる?」
「いいえ」
「そっか。よかった」
 少年は目を伏せて笑う。それが演劇の舞台のように見えて、私は少年の造形の美しさに多少感心した。
「キラというのはあだ名みたいなものだよ。……僕の名前は、夜神月。17歳かな。高校生だ」
「ヤガミ、ライトですね。私は……」
「竜崎?流河?今はどの偽名を?」
「……竜崎です」
 一瞬、何と名乗るべきか逡巡した。既にLであることを暴かれていたためだ。しかしまさかその隙にヤガミに偽名すら当てられるとは、幾ら何でも思いさえしなかった。
「残念ながら、今の発言であなたは当分家族のもとへは戻れなくなりました、ヤガミくん」
「ふうん……僕はどうなる?ああ、ソファに座っても?」
「どうぞ。そうですね、特に武器も所持してはいないようなので、先ずは軟禁させて貰います」
 ヤガミは両手を軽く上げた状態で、ゆっくりとソファに腰掛ける。攻撃の意志がないことを表すように、両手を膝の上にそっと揃えた。
「竜崎も座れば」
「はい」
「……そんなに簡単に警戒解いて大丈夫なのか」
「私には精神的間隙による自衛ミスはない、と思って戴きましょう」
「そう」
 大して興味もなさそうにヤガミが頷く。それから言葉を噛み締めるように、小さく呟いた。
「僕が逃げ出す心配はしなくてもいいよ。僕はここに居たい」
 そう云うヤガミの表情は優しい。

続く