月が落ちていた5

もうちょっとで終わります。多分……近いうちに……えーとあと何話かで。どんなオチにしようとしていたのかを忘れてしまったのが致命的です……いやほんと何の話を書こうとしていたのやら。アルツですね。アムステルダム直行便をチャーターしてください竜崎ー。

『ドアの前に月が落ちていた』その5

 夜神月、という名前の少年が私によって軟禁されてから、既に二週間が経っていた。都内の高校と塾に通う学生で、警視庁に勤める父親と専業主婦の母親、中学生の妹と四人で暮らしている。学業は非常に優秀。運動能力も高いようで、中学ではテニスの全国大会に優勝していた。心眼だの無我の境地だの、昨今の中学生も侮れないものだ。
「全くつまらない経歴ですね」
「ああ、僕も同感だよ」
 何故私がたかだか高校生の調査をしなければならないのだろう。こんなものは興信所の仕事だ。鬱憤を込めて溜息を吐けば、満更口先だけでもなさそうな顔をした夜神がつまらなそうに同意した。
「ずっと退屈してたんだ」
 夜神が私をじっと見る。何故か初対面の時から夜神は私に全幅の信頼を寄せていた。それが未だに不思議でならない。軟禁しようが尋問しようが、夜神は全てを私の判断に委ねている。それで私も最初はしおらしく見せようとしているのかと考えたが、嫌がりそうな部分をつついてみれば案外素直に私を罵った。それでますます彼の意図が見えなくなったまま、今に至る。
「しかしこれでどうやって私のことを知ったのか、それがますます謎です。説明してください。ついでにそこのケーキ食べないならください」
「説明したくない。それにお前はもう自分の分のケーキ食べただろ」
 失敗した。彼はいつもこの質問で気分を害して質疑応答を拒否するのだった。当初の予定ではもうしばらく簡単な質問を続けてからこの話題に移るつもりだった。
 夜神が小さく嘆息する。
「どうせへそ曲がりだと思っているんだろう。だけど妥当な質問で場を和ませてから訊こうとしたって、僕はその質問に答えるつもりはないよ」
「……なんでわかるんですか……」
 こんなにも他人に思考を読まれていたのでは不愉快だ。私は指先につまんだフォークをぶらぶら振って、既に空になったケーキの皿を恨めしく眺める。
 ふと、目の前に新たにケーキの皿が滑りこんできた。
「なんですか。こんなもので機嫌なんて取られませんよ」
「知ってるよ」
 夜神が優しく微笑んでいる。
「私が食べてしまったら夜神くんなんか飢え死にしますよ」
「虐殺だね。極悪非道だね」
「……いただきます」
 私はケーキにそっとフォークを差し入れた。ミルフィユがさっくりと音を立てる。甘さを控えたクリームは下手に糖度の高いものよりもずっといい香りがした。
「僕はただ、竜崎の側に居たいだけなんだよ」
 すこし苦しそうに笑った夜神の声は、あくまでも優しく響いた。

もうちょっとだけ続きます。ほんとぐだぐだですね!orz