さっき気づいたこと

ふと気がついたのですが、デスノートとギアスってわりと共通点が多々ありますよね。なんか以前友人にギアスの説明をしていたら「それなんてデスノ」って云われたりしたのでした。まあ確かに主人公が異能の力を手に入れて世界を変えようとする……っていうと全く同じに聞こえますね。こういう書き方だとあらゆるセカイ系のジャンルに被る訳でもありますが(笑)。


という訳で、ちょっとデスノのときに書いた文章を改編してスザルルにしてみました。名前変えた程度。
これで使い回せてしまうのが笑える……。


『波紋とシャンティティ』


「スザクは恋をしたことがあるか」
 いつものようにクラブハウスで用意されたケーキをつつきながら唐突にルルーシュがそう発言したので、僕はそのひどく独り言めいた疑問に対して返事をするべきかどうか一瞬躊躇した。質問をされたのなら答えねばならないのだろうけれど、僕としては極力ルルーシュには自分の情報を曝け出したくはないのだ。僕はルルーシュが記憶を取り戻したかどうかを探るべきなのであって、自分が探られることはあってはならない。それにこの発言は只の独り言かも知れず、だから尚更返事はし辛かった。
 とは云え、今日もまた普段と全く変わり映えのしない日だった。ルルーシュは依然として特に不審な動きを見せない。僕は学園に通う傍らラウンズの仕事で忙しいし、機情局は尻尾を出すはずもないゼロの立ち回りにすっかり手詰まりだ。だがそれでも僕は一応、まあ最低限表面上でも、ルルーシュの友人であるはずだったし、だからルルーシュのそんな発言に僕は不意を衝かれた訳でもなかった。
 そもそもこれはどういった意味での疑問なのだろうか。確かに僕には関係のある女性が数人いる。彼は僕について、特に僕の職業についてほぼ全く質問をしないから、近年僕がどうしているのかを知らなくて当たり前だ。しかしそれをわざわざ僕に質問したとは思えないし、もしかするとルルーシュは何らかの機会にこの事実を知って、僕が純粋な好意からそれらの女性達と付き合っている訳ではないことが解っているのかも知れなかった。しかし例え僕が彼女達にさしたる特別な感情を抱いていないとしても、普通の十代の男が誰かと付き合ってみたいと思わないことの方がおかしいのだから、僕の目的が何であれ疑問を抱くまでもないことだ。ルルーシュが一体どういうつもりであんな質問をしたのか、その意図はいまいち読み切れなかった。
ルルーシュはしたことはないの」
 僕は適切な返答に困ったので妥当な対応をする事に決め、至極さらりとした調子で逆に訊き返してみた。
 微かに笑みを浮かべながらルルーシュの方を見やると、ルルーシュはあたかもケーキについて新事実を発見したかのような面持ちで目の前の皿をフォークでつついていた。今なら「スザクたった今俺はケーキとクリームとバニラの関連性について宇宙を見出したんだ」なんていう電波な台詞をアテレコしても違和感が無いだろう。
 訊き返しはしたもののいつまで経っても返事をしないルルーシュに苛立ってそんなことをつらつらと脳内で思っていると、またもや前触れ無くルルーシュが口を開いた。
「そうだな……そういった経験はない」
 云って、それまでずっとケーキを見つめていたルルーシュがようやくこちらを向いた。だが視線は合わせない。
「いや、俺はそういうものを避けている、というのが正しいんだろうな。感情なんてものは時折激し過ぎる」
「そう。まあ僕としてはルルーシュがどうしようと構わないけどね」
 そもそも僕にはルルーシュの恋愛観などどうだっていい。僕には関係がないのだから。ルルーシュが例えロリコンだろうがスカトロフェチだろうが、あるいはいっそネクロフィリアやクリューバー・ビューシー症候群患者だったとしても、僕の知ったことではない。元を辿ればこんな人間の一挙一動にいちいち悩まされなければならない理由だって、ルルーシュが僕の敵であるということ以外にはないのだ、本当は。
 あからさまなほど投げやりに返事を返すと、ルルーシュはやや不服そうな表情になり、やっと僕を見た。恐らく僕を納得させなければ気が済まなくなったのだろう。思った通り、ルルーシュは早速弁解じみた説明を始めた。
「掌中で踊るものなら、それが例え何であろうと結局は可愛いものだ。しかし恋だとか愛情といった執着は正しい判断を狂わせる。制御し切れない感情は理性や倫理を狂わせ時に覆す。人間という、感情に支配された生き物で在り続ける限り、そしてその人間が理性的であろうとする限り、感情の波を乱す要素は非常に危険だ」
 そこまで云うと、ルルーシュは僕の表情を伺うように僕をじっと見つめた。
 僕は溜息と共に「僕にはさっぱりわからないよ。もういいかい満足しただろう」と吐き出す。正直こんな話題に興味は無いのだ。ルルーシュが一生恋をしなかったところで早死にしてくれる訳でもなし、ユフィが生き返る訳でもない。それに僕だって案外似たようなものなので、ルルーシュの話を聞いていると何だか自分自身の独白を聞いているような気分にならないでもないのだった。ただ、僕の場合はルルーシュとは理由が根本から違っていたけれど。
「お前はまだ俺の質問に答えていないだろう、スザク。スザクは恋をしたことがあるのか」
 視線が軋みを上げて交錯した。
 ルルーシュは相変わらず僕を見ている。ただでさえ整った顔立ちが、信じられないほど無表情になっているせいで、いかにも生き物ではないように見えて仕方がない。
 僕はもう感情に動かされたりはしない。愛情や憎しみといった、強い感情の波を恐れてもいない。それらは僕の中では飼いならされたけだものなのだ。だって僕は誰にも望まない。この世界はこれだけ僕を、ユフィを、そして多くの人々を否定してきたというのに、そして生きる資格の無いゼロが今ものうのうと生きているというのに、何を愛すというのだろう。僕は僕の行く手を阻むものを一掃することによって平和な世界を作り出すし、ルルーシュはどうせその完成を見ることはない。
 だが、ルルーシュは。このルルーシュという得体の知れない男は、実は興味深いといえば確かに興味深いのかもしれない。ふと僕はそう思った。もとは友人だったはずの、だが僕が裏切られるまでほぼ全くその内面を知らなかった男は、僕の中にどんな恋や夢物語よりも生々しい強い感情を巻き起こす。
 そうだね、面白いじゃないか。
 僕は何も云わないまま、口許だけで少し笑って見せた。
「……恋なんて感情の波を乱すものを、俺は望んでなんかいない」
 ルルーシュはふらふらと視線を泳がせながら誰にともなく云い聞かせるようにしてそう云い、僕は口の形だけで「その通りだよ」と賛成してやった。